受付嬢

私、六車八重(むぐるま・やえ)。

 

 

 

カクカクして、なおかつ丸々してどこかに転がっていきそうな名前だけど、自分では結構気に入ってる。

 

 

 

ヤエって呼ばれたときの、響きも好き。

 

 

 

短大を出て就職した先が都内のさざれ百貨店。

 

 

 

二泊三日のオリエンテーションと研修を終えて、配属された先は受付嬢だった。

 

 

 

勝手なイメージだけど、受付嬢ってやっぱり百貨店の顔って感じじゃない?

 

 

制服も結構かわいいし。

 

 

 

彼に「いつか制服持って来てくれよ」なんてちょっとエッチなこと言われたりして。

 

 

 

「やめてよー」なんて言ってるけど、私もちょっと浮かれてる。

 

 

 

だって私、デパート大好きだもん。

 

 

っていうか、デパート嫌いな女の子なんていないと思うんだよね。

 

社員割引もあるし、いうことなし。

 

 

 

とにもかくにも、順風満帆(ジュンプウマンパン)。春らんまん。

 

 

 

この世の春ってこういうことを言うのね、なんて思ったりして。うふふふふ。

 

 

 

 

 

『次のニュースです。

 

さざれ百貨店が長年続いていた業績悪化のため、一ノ瀬グループの子会社として経営再建の道を選びました。

 

なお岩尾社長は経営責任を取って辞任。一ノ瀬グループから新たに役員を迎え、将来的には従業員の早期退職を――』

 

 

 

 

入社してそろそろ一ヶ月って日の夕食。

 

 

一家団欒のテーブルで、弟がつけたテレビのニュースに、みんなが釘付けになった。

 

 

 

 

「あら大変、ヤエの職場じゃない!」

 

 

 

お母さんにバシッと叩かれるまで、意識が戻らなかった。

 

 

っていうか、完全にトリップしてた。

 

だって意味わかんない。

 

 

全然頭に入らなかった。

 

 

 

ニュースが次の話題に切り替わって「今のは夢じゃなかったよね?」なんて周りに確認して。

 

 

慌てて弟の手からリモコンを奪い取り他のチャンネルに変えてみる。

 

 

 

「これどういうこと!?

 

入社して一ヶ月で会社がつぶれたってこと!?

 

明日から私、どうするの!?

 

社員割引は!?

 

受付嬢の制服は!?」

 

 

 

わけわかんなくて、食事をやめてテレビにかじりつく。

 

 

 

「会社が潰れたわけじゃねーだろ。一ノ瀬グループの子会社になるから経営陣が変わるだけだ」

 

 

 

くそ生意気な弟が、したり顔でお味噌汁をすすっている。

 

 

落ち着いた様子に激しくむかついたけど、一つ下の弟、九樹(クジュウ)は私と違って頭がいいから、怒りを抑えつつ問いかけた。

 

 

 

「わ、私は!?」

 

「だから下っ端にはあんまり関係ねーと思うよ。

 

ヤエ、新入社員で採用されたわけだし、こういう経営統合なんてそこそこ時間かけて決めてるはずだから、入って早々首ってことはなさそう」

 

「本当!? 信じるからね! マジ信じてるからね!!」

 

 

 

首になったら、お給料をもらえる前提で買ってしまったルブタンの靴や、Max Maraのスプリングコートの支払いが出来ないんだから!

 

 

 

「まぁ、大丈夫と思うけどね。ただリストラの結果如何(イカン)で、人によっちゃ配属は変わるかもしんねーな」

 

 

 

そんな九樹の言葉は、信じたくないからスルーした。

 

 

 

 

だって、受付嬢が好きなんだもん!!

 

 

花形だもん!!!

 

 

 

お客様からけっこう差し入れとかもらえるし、彼氏の友喜(トモキ)だって、受付嬢ってことですっごく喜んでるんだから!

 

 

 

「とりあえず受付嬢続けられるならなんでもいいや、えらい人なんて私には関係ないし〜」

 

 

 

リモコンを放り出して、ソファーにダイブ。